不傳庵 茶の湯日記
初風炉の景色
遠州茶道宗家十三世家元 小堀 宗実
初風炉の季節を迎え、点前畳の風景は、炉の名残りから一変する。釣釜や透木〔すきぎ〕釜の掛かっていた炉は塞がれ、小板の上に風炉が乗り、その上には釣釜に使用されていた、細い筒釜や、霰地文の真形の釜などが掛けられるようになる。この時季の風炉(五月)は、まず土風炉が用いられるのが常の約束事である。土風炉とは、その名が示す通り、土を焼いて作った風炉のことで、瓦や土器などと同じく素焼きしたものを、漆を塗って磨いたものである。茶の始祖、村田珠光の創意により始まったといわれている。形はさまざまであるが、現在では初風炉の時は前欠きのものを使うことが多い。
風炉には三本の足がついているが、遠州好みには、乳足〔ちあし〕といって、先の尖っているものがある。この土風炉を乗せる小板は、真塗の荒目板というのも約束事である。荒目は手前つまり亭主側が目が荒く、風炉先側になるとだんだんと細かくなっている。ときに、目のあり方が不規則なものもあり、板の厚さなどにもかなり厚いものもあったりする。
初風炉の前欠き風炉は、比較的大きいものも多いので、そのなかに丹精こめた真の灰形をすると、大変見事である。一文字と遠山のたっぷりとした灰形がつくられた点前座の風景を見ると、正しく薫風自南来の心地になる。この景色は、炉の季節では味わえない特別な爽やかさである。炭を入れ、湯が沸く頃になると、灰の一文字の前瓦のあたりが少しずつ色の変化を見せる。その乾き方も風炉の炭点前の味わいの一部である。湯がすっかりと湧き、煮え音が松風の響きをもたらす頃に、風炉の茶事では後入りとなり、そこで濃茶をいただく。この一連の流れだけでも、茶の湯のみが持つ素晴らしさが感じられる。
私達は、点前を上手にしたい、高度な点前をしたいという気持ちにとらわれやすいが、別の角度でも、充分に茶の湯の醍醐味を感じることができるのである。
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おわりに、新型コロナウイルスの世界中での感染拡大は、大変憂慮する事態となっている。宗家行事も、遠州忌茶筵をはじめ、その他、茶会はことごとく中止せざるを得なくなった。東京2020オリンピック・パラリンピックも一年程度の延期が決定された。病気の症状に軽重の違いがさまざまであるが、世界規模での広がりという意味では、人類史上最も厳しいといえよう。いかに対処するかを、簡単に申し上げることはできないのが、今回の難しいところである。ホームページなどではできるだけ、行事その他をご案内するつもりでいる。